Think clearly 3/3

41.自己憐憫に浸るのはやめよう

オペラ「道化師」の第一幕は道化師カニオが出演する舞台の幕が開く前に、妻が浮気していたことを知るシーンだ。それでも「ショー・マスト・ゴーオン(Sho must go on)」の理念に則り、カニオは泣きながら「衣装をつけろ」を歌う。第二幕は妻とその愛人をカニオが刺し殺す。観客はそれを見て目をうるませるが、カニオの行動は長い目で見れば建設的なわけではない。

不幸な過去を振り返り、それが現在に与える影響をことかまかに調べようとする「総括」には、以下の二つの問題点がある。

  • いつまでも他人のせいにはできないということ。そもそも40歳にもなって、自分の問題を親のせいにするなど未熟としか言いようがない。
  • 子供時代の不幸な出来事は、成年に達してからの成功や満足度にほとんど影響を与えることはないということ。

人生は完璧ではないという事実を受け入れよう。他の人も完璧ではないのだ。

42.世界の不公正さを受け入れよう

現実の世界はかなり「不公正」である。社会の不公正の多くは、保険や富の再分配などでは全て解消することはできない。それでもそういった措置を講じた上で、残りは現実として、そのまま受け入れ、冷静に耐えるべきだろう。

不運や失敗は落ち着いて受け止めるべきだし、大きな成功や幸運においても冷静であろう。

43.形だけを模倣するのはやめよう

第二次世界大戦における太平洋の小さな島々で「カーゴ・カルト」と呼ばれる島民の儀式があった。それは米軍が大量の物資を空中投下して、食料弾薬を得ているのを見て、空から当たり前にそれらが降ってくるのだと考えた。

米軍が去った戦後、彼らは滑走路のようなものを作り、藁でつくった実物大の飛行機を作り、竹の無線塔をつくって崇めた。もちろん空から食物は降ってこない。

ヘミングウェイの髭を真似ても偉大な小説家にはなれないし、パーカーを着て出社してもザッカーバーグにはなれない。(しかし多くの人がそうしている)

中身の伴わない形式主義は社会に蔓延しているが、カーゴ・カルトに陥っている人や組織とは距離を取るべきである。

44.専門分野をもとう

脳のキャパシティは限られている。専門分野の知識が増えるほど、一般的な知識のためのスペースは少なくなるはずだ。「専門バカ」と呼ばれると憤慨する人は多いだろう。

私達は自分の仕事は「幅広く」、顧客のポートフォリオは「多様」で、新規プロジェクトはとても「斬新」であると語りたがる。しかしコンピュータからカカオ豆の売買まで、あらゆる専門分野を見渡してみると、自分たちの知識がとても限られた領域だということがわかる。

専門分野の範囲自体はどんどん狭まっているのだ。石器時代は専門分野を持つ職業はなかった。自らが生きるための全てを行っていたので、「多才」でなければなかなかった。

現代に生きる私達は、特定の知識しか持たない自分が、ひどく弱い不完全な人間に思えてしまう。

地理的に隔離されていた市場が一つになり始め、テノール歌手はいくつかの街で一人いれば十分になった。市場に「一人勝ち」減少が起こったのだ。

一方で「職業の専門化 」はどんどん進んだ。各分野内での競争は熾烈だが、専門分野の数は無数にある。自分のレースを勝てばいいのである。具体的な方法を示す。

  • 他の誰かに追い越されて、自分の専門性が不十分だと気づくことがある。自分のできることの中で、何に焦点を当てればよいか検討しよう。その際に「能力の輪」(共注 16章)を意識する。
  • まだ第一人者でなければ、更に深く探求する必要がある。自分独自のレースをつくるべきだ。
  • もはや一般的な教養は趣味としてしか役に立たないことを知る。

45.軍拡競争に気をつけよう

ルイス・キャロル「不思議の国のアリス」において、赤の女王(友注 赤の女王仮説)はアリスに言う。「この国では同じ場所にとどまりたければ、全力で走り続けなくてはなりません。」

現状を維持するためには、周囲の変化に合わせて進化し続けなければ、生き残ることはできないということだ。コピーショップも大学卒という肩書も、この10-20年で価値は大幅に低下した。けれどもライバルとの競争のさなかでは、そのことに気づきにくい。よって軍拡競争のない活動領域を見つけるべきなのだ。(友注 ブルー・オーシャン戦略に近似)

プロの演奏家を目指しているのなら、ピアノとバイオリンは避けたほうがよいだろう。

46.組織に属さない人たちと交流を持とう

学術研究にしても、経済界でも、文化においても「どこにも属さない部外者」が興した変革は驚くほど多い。なぜなら、組織に属していない人たちは、その内部にいる人達よりも迅速に行動できるため、早く結果を出せることが多いからである。

しかし「完全なる部外者」になるべきではない。属する組織を持たないと、社会があなたを拒絶しようとするからである。「片方の足」を組織に固定し、もう片方で放浪の旅に出れば良い。その際に「彼ら」とは次のルールを守るべきだ。

  • 社交辞令ではなく、心の底から彼らの仕事に関心を持つ
  • 自らの社会的地位をちらつかせない
  • 寛容になろう。彼らはルーズな場合が多い
  • ギブ・アンド・テイクを忘れずに

47.期待を管理しよう

脳は常に何かを期待している。日常的な動作でも常に期待しているが、それを自覚することは少ない。例えば、ドアを握ればドアが開くだろうという期待だ。脳は「不定期に起こる出来事」に対しても期待する。

しかし非現実的な期待は幸福感を大きく損なう。また所得の増加で幸福度が増すのは、年収1200万円程度までだ。

では「期待」にはどう対処するべきか。頭の中の考えを、「しなければならないこと(=必然)」「したいこと(=願望)」「できればいいなと思うこと(=期待)」に分ける。

「絶対にCEOにならなければならない」は必然ではなく、願望である。願望を人生の必然のように考えると気難しく、不機嫌になる。しなければならないことは、そんなに多くはない。

次に「願望」についてである。あなたがCEOになれるかどうかは、あなた自身の問題以外にも様々な要因によって決められる。あなたのコントロール下に無いものばかりだ。

そして「期待」についてである。あなたが大きな失望を感じる時、その原因の多くは期待をきちんと管理できていないことにある。私達は期待という感情に無頓着なため、他人にいいように利用されてしまう。その最たるものが、広告だろう。私達の期待を煽るため以外のなにものでもない。「期待」についてはもっと自覚的になったほうがよい。

48.本当に価値のあるものを見極めよう

SF作家のスタージョンへの批判に対する返答。「たしかにその通りだ。だがあらゆる出版物の90%はクズだ。ジャンルなんて関係ない。」(=スター・ジョンの法則)

広告の、Eメールの、ツィートの、そして会議の90%は中身がなく、時間の無駄である。同様のことを投資家ベンジャミン・グレアムは「賢明なる投資家」の中で述べている。

株式市場は分別に欠ける「Mr.マーケット」であり、毎日違う価格であなたに売買を持ちかける。90いや99%はあっさり無視して構わない。価値あるもの、質の良いもの、絶対に必要なものはほんの僅かである。

49.自分を重要視しすぎないようにしよう

「自分が重要な人間だ」という思い込みを避けるには、次の世紀の視点から自分を眺めてみると良い。200年後にビル・ゲイツやドナルド・トランプのことを誰だか分かる人は、ほとんどいないだろう。自分を重要視する度合いが低ければ低いほど、人生の質は向上する。

  • 「余計な労力」がかかるからだ
  • 「自己奉仕バイアス」(友注 見栄の維持)に陥りやすくなる
  • 敵をつくってしまう

そしてエゴは意識的に抑えたほうが良い。長い目で見れば謙虚でいたほうが生きやすい。尊敬されるだろうし、地についた考え方ができ、感情の波に振り回されなくなる。

50.世界を変えるという幻想を捨てよう

ネルソン・マンデラやスティーブ・ジョブズの名言は私達を奮い立たせ、私達には「世界を変える力」があるように思わせる。しかしそれはまったくの幻想である。

第一の理由は、フォーカシング・イリュージョンである。あることに集中して考えている間、それは人生の重要なことだと思いがちだが、実際は大したことではない。

第二に、「意図スタンス」と呼ばれる概念だ。変化が起きるときには必ず誰かの意図が働いしていると考えてしまうことだ。例えばティム・バーナーズ・リーがいなければWorld Wide Webは考案されなかったと考えてしまう。しかしルターがいなくても、だれかが宗教改革をしていただろうし、コルテスがいなくても中南米諸国はヨーロッパからのウィルスによって致命的になったことは変わらないだろう。

「偉人」を崇拝しないことも、よい人生の条件の一つである。(友注 おそらく51章に話が続く)

51.自分の人生に集中しよう

例えば鄧小平がいなければ、中国は発展しなかっただろうか。史実を分析すると、市場経済導入のきっかけは、一般市民の自発的な動きだったことがわかる。困窮した、ある18人の農夫が国有地を違法に分割し、収穫量を数倍にした。地域幹部は党にこの方法を活用する提言書を送り、たまたまそれに目を留めた鄧小平が採用したことで農地改革が実現した。

グーテンベルクがいなくても、それ以前から中国で印刷技術はあったし、エジソンの前に23人もの人が導線をつないで光を灯している。そしてライト兄弟のように実験をしていたチームは世界中にあった。「技術が発明者を発見するのであって、発明者が技術を発見するのではない(注 マット・リドレー)」の言。

バフェットは以下のように述べる。「経営者としてのあなたの業績は、あなたの漕ぎ方が効率的かどうかより、あなたが乗っているボート自体の機能によって決まるところが大きい。」

例えあなたがどんなに優秀でも、世界全体の構造から見れば取替可能な存在である。あなたが本当に重要な役割を担っているのは、あなた自身の人生に対してだけだ。

52.内なる成功を目指そう

フォーブスリストに載る成功者は、どのくらい大きな成功を手にしているのか。それは成功とは何かによって変わる。なぜ富豪のリストはあるのに、満ち足りた人生を送っている人のリストはないのだろうか。

それは社会を一つに結びつけているのは「経済成長」だからだ。生活水準が上がる見込みが見えれば、人々は希望が持てる(友注 日本の失われた30年で社会の結束は弱まったのだろうか検討)。しかしフォーブスリストに心を乱されないために、以下の二つを知るべきだ。

  • 成功の定義は時代の産物である。1000年前にも1000年後にもフォーブスリストはないだろう。
  • 物質的な成功を手に入れられるかは、100%偶然によって決まる。(友注 10章)

著者は「内なる成功こそが真の成功」とし、以下のように紹介する。

心の充実や平静さを手に入れよう(注 アタラクシアの状態)。そのために、自分たちが影響を及ぼせることに意識を集中させ、それ以外のことは切り離しておくことだ。裕福さやCEOのポジション、金メダルを目指している人たちも、実は内側の成功を目指しているのだ。どこをどう経由しても、目的は結局心を充実させることだ。

ならばもとより「内なる成功」を目指すべきではないのか。

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