読書メモ書き
0.前書き
「よい人生」とはなにか、その答えは出てこない。なぜならたった一つの原則、原理、法則にその答えを求めてきたからだ。世界は複雑で、それらだけでは把握しきれない。だから世界を理解するには、しっかりとした思考の道具箱が必要である。本書はその思考の道具をまとめたものである。
1.考えるより行動しよう
何を書くかというアイデアは「考えているとき」ではなく、「書いている最中」に浮かぶ。新製品が市場に受け入れられるかは、市場に出してみてからでないとわかり得ない。検討して考えるだけでは、先行きはわからない。限界までリスクやプランを考えて、それ以上に何も出てこなくなった到達点を「思考の飽和点」と呼ぼう。思索だけで新しい発見ができることは、ほぼない。確かに考え続けるだけのほうが、ラクである。人生においても同じことで、自分が何を求めているのか知るには、何かをはじめてみるのが一番である。
2.なんでも柔軟に修正しよう
飛行機は決まったルートを飛行するようにするが、そのために、毎秒何回も舵を修正している。5分間でもベッドでパートナーになってみた経験があればわかるだろう。常に微調整や修正を繰り返さなければ、うまくいかない。よい人生とは「一定の決まった状態」ではなく、「修正と繰り返しを行った後に初めて手に入れられる状態」だ。
早いうちに軌道修正をした人は、長い時間をかけて完璧な条件設定をつくりあげ、計画がうまくいくのをいたずらに待ち続ける人より、得るものが大きい。
例)人格形成・米国憲法・マイクロソフト社製Word
3.大事な計画をするときは、十分な選択肢を検討しよう
重要なことを決めるときに、どのくらい、いろいろなことを試してみてから最終決定を下すべきだろうか。大抵の場合はサンプル数が少なく、決めるタイミングが早すぎる。パートナーを選ぶ、秘書を選ぶ、好きなアーティストを探すなどは、多くのサンプルを試すのが面倒だからである。サンプル数が多すぎるなかでも、最善の選択をするためには、「秘書問題」と呼ばれる次の式で解くのが最適である。
一人の採用枠に100人の応募が来た場合、まず最初の37人を全員不採用にする。次にその37人で最も優れたものを自分が把握し基準とする。残りを順に面接し、その基準を超えた最初の者を採用する。
100/e e=数学定数=2.718 サンプル数50の場合には18人から基準を探す
4.支払いを先にしよう
駐車違反の罰金は「寄付口座」から支払いをしよう。宝くじで当てた一万円なら、働いて稼いだ一万円より無造作に使えるからである。「メンタルアカウンティング」と呼ばれる心の錯覚で、自分の心が穏やかでいられるように、わざと自分を錯覚させるのだ。
旅行に行くときは、ホテル代を前払いにしてみよう。「ピークエンドの法則」、つまり旅行の一番楽しいピークと終わりしか記憶に残らないという法則である。最後の夜の気分を宿泊費の請求書で台無しにされないようにするためにである。(※友注 カウンターで前払方式のバーも、この法則をうまく活用しているといえる。プレコミットメント)
このように失った時間と金は戻らないが、解釈の仕方を変えることはできる。
5.簡単に頼み事に応じるのはやめよう
よくある「ちょっとした頼み事」をついつい引き受けるのはやめよう。意外と時間がかかるし、彼らが得られる収穫も少ない。チンパンジーは、次回その仲間が獲物を分け与えてくれるのを期待して、自分のものを分け与えている。これを「互恵的利他主義」という。これには2つの危険がある。
- 行為を受けると、お返しをする義務があるかのように感じ、頼み事を断れなくなる。
- つい頼みに応じてしまった自分を正当化しようと、時間を浪費してしまう。
頼み事をつい引き受けてしまうのは、猿やチンパンジーの時代からある人間の本能的反応なのである。しかし大丈夫、90%は断ってしまって構わない。頼み事をされたとき、その無理な要求を検討する時間は5秒間と決めよう。断ったところで、人はあなたをすぐには嫌いにはならない。
6.戦略的に「頑固」になろう
キューバを出港しメキシコについたコルテスは、わざと船を沈没させ、退路をたった。(※友注 背水の陣)なぜコルテスは選択肢の幅を狭めたのか。
クレイトン・クリステン(※注 イノベーションのジレンマの著者)は「誓約」のもとに生活をしている。それは「週末に仕事をしないこと」「平日は家で家族と夕食をとること」であり、それを守るため朝の三時に出社することもある。なぜこんなに頑なに生きているのか。
重要な事柄については、「柔軟性」は不利に働く。なぜ「徹底的に頑固な姿勢」を貫いたほうが、長期的な目標を達成できるのだろうか。
一つは柔軟であり続けると、決断疲れが起きる。疲れた脳は、安易な選択肢を選ぶようになる。誓約を立てれば、天秤にかけて決断をする必要がなくなる。
2つ目は「評価が確立される」ことにある。一貫した姿勢は、自分のスタンスを伝えることができ、主体的な印象を与えることができる。(※友注 頑固者は信用できる)
7.好ましくない現実を受け入れよう
フライトレコーダーが全機に搭載されているのは、「失敗からの学習」の象徴である。祈ったり、怒ったり、酒を飲んでも現実は変わらない。しかし、現実を受け入れ、フライトレコーダーを分析しようとするひとは、ほんの僅かだ。
バーランド・ラッセルは「いつまでも芽のでない劇作家は、自分の作品に価値がない可能性を冷静に検討してみたほうがいい」と例をあげている。
8.必要なテクノロジー以外は持たない
自分の車の「平均速度」は現実にどのくらいだろうか。乗車時間のみならず、車の購入費のための仕事時間や税金、違反切符などを換算してみたうえでの速度である。あるアメリカ車の平均速度はたった時速6キロであった。車であるのにも関わらず、歩く速度と同程度である。これをイヴァン・イリイチは「反生産性」と呼ぶ。
Eメールもそうである。OSのアップデート、スパムの整理などを概算すると、一通あたり1ドルというコストになる。デジタルカメラも同様である。
テクノロジーとは登場した時にはすばらしく便利に見えるが、「反生産的」に作用するものも多い。「本当は必要ないものを排除すること!」を勧める。
9.幸せを台無しにするような要因をとりのぞこう
投資家はアップサイド(ポジティブな結果を指す)とダウンサイド(倒産などのネガティブな結果)という言葉を使う。飛行前や飛行中、私はダウンサイドにのみに気を配る。アップサイド(アルプスの壮大な景色、高所でのサンドイッチの味)についてはほとんど意識をしない。ダウンサイドが取り除かれていれば、アップサイドは自ずと姿を表す。
アマチュアのテニスでも同じだ。どれだけミスをしないかが勝利につながる。何が人間を幸せにするのか、人間のアップサイド-幸せな要因-は、あまりまだよくわかっていない。反面、ダウンサイドのことはよくわかっている。それはアルコール、麻薬、ストレス、不安定な結婚生活、貧困などである。このことから、「何を手に入れた」かではなく、「何を避けるか」が大事である。
10.謙虚さを心がけよう
先進国の人々は「私達の収入の大部分は、恵まれた国で育ったことによる」と思っている。出生時に運命づけられた格差のことをウォーレン・バフェットは「卵巣の宝くじ」と呼ぶ。現在のあなたの価値観も、ものの見方も思想も、あなたが自分で身につけたものではない。
まず現代人は、これまで地球上にいた全人類のたった6%である。(※友注 さらに、そのうち日本人に生まれた割合は1/50であり、全人類の0.12%になる)さらに我々はすべからく両親の遺伝心の偶発的な組み合わせだ。あなたの成功のうち、個人的な成果が占める割合はどのくらいだろうか。
そう。ゼロパーセントだ。このことから言えることは、
- 謙虚であれ(→49章)
- 成功の一部を良い遺伝子、出生地、家族に恵まれない人たちに分け与えるべき
11.自分の感情に従うのはやめよう
今、見ているものを描写するのは簡単だ。今の自分の感情はどうだろうか。見ているものほど正確にわからないだろう。英語には感情を表す言葉が300以上もある。色を表す言葉よりも多い。それにもかかわらず、自分の感情を把握するのは難しい。
よってあなたの感情をコンパス代わりにするのは良くない。「あなたのこころに従って!」なんていうフレーズには一切従ってはならない。なぜ自分の感情の分析は難しいのか。ひとつは遺伝子に残らないからだ。もう一つは、自分以外に自分の心を決定する権限を持つ人がいないからだ。
自分と自分の感情を別物として扱うとうまくいくだろう。特にネガティブな感情を扱うときはそうするべきだ。ネガティブな感情はエスカレートしやすい。ネガティブな感情とのリラックスした付き合い方を構築するべきである。周りの人の感情は常に真剣に受け止めるべきだが、自分の感情とは真剣に向き合う必要はない。
12.本音は出しすぎないようにしよう
自分の本音はどこまでオープンにすれば良いのだろうか。自分の本音を全く隠そうとしない人を具体的に想像してみると酷いことになる(注p106)本当の本音はどのように扱えばよいのか。さらけ出さない理由はいくつかあるが、なぜさらけ出さないほうが良いのか。
- 私達自身、自分のことをよくわかっていない。わかっていないのに本音を話すことにどれほどの意味があるのか。
- 本音をあけすけに語っても、自分を滑稽に見せるだけだ。心の内を語っても尊敬されない。口にした約束を果たすから尊敬されるのである。
- 細胞の作りを考えるとよく分かる。外側と境界のない生物は長く生きられない。自分をこっけいに見せるだけでなく、攻撃されやすくなる。
解決方法は「二番目の人格」を作ることだ。安定した信頼を得るための「職業上の外向きの顔」だ。あなたは内務大臣と外務大臣の2つを務めるのだ。外側の世界との境界が明確になれば、内側の世界のことも理解できるようになる。
13.ものごとを全体的に捉えよう
フォーカシングイリュージョンとは「特定のことについて考えている間は、それが人生の重要な要素に思えても、実際にはあなたが思うほど重要なことでもなんでもない」という錯覚を表す言葉である。本文中の「寒いドイツ」と「陽の光がさんさんと降り注ぐマイアミビーチ」という「気候」だけに焦点を合わせた話は、二つの要素だけがドイツとマイアミの生活を評価する基準となる。
ところが、朝の通勤から夜のソファーでくつろぐまでを考えると、天候はその日全体のほんの一部の要素であるとわかる。特定の要素だけに意識を集中させないほうがいい。他の仕事を選んでいたら?別の場所に住んでいたら?ヘアスタイルが違っていたら?自分の人生はどのくらい良くなっていただろうか。何か一つの要素が変わってたとしても、結果はたいして変わらない。自分の人生をできるだけ距離を置いて捉えてみてほしい。つまらないことに意識を集中させていては、人生を浪費するだけだ。
14.買い物は控えめにしよう
車を所有することは、価格と比例して喜びは大きくなるが、車を運転することとなると、価格との間に相関関係はなくなる。これもフォーカシングの影響であり、車そのもののことを考えるのと、運転することによってクルマそのもの以外のことを考えることの違いにある。これは別荘でも、巨大テレビでも、ブランド物についても同じことが起こる。
さらに8章で述べた「半生産性」の問題も同時に起きる。一方でフォーカシングイリュージョンをの影響を受けない高級品もある。それは「経験」だ。ちなみに仕事も経験の一つだ。仕事中はその仕事を取り立てて意識することはない。好きな仕事をしていたら、そんなにすばらしいことはないだろう。逆に、嫌いな仕事の場合は深刻だ。私達は「モノ」が与えてくれる幸せを過大評価し、「経験」が与えてくれ幸せの効果を過小評価している。
15.貯蓄をしよう
「限界効用逓減の法則」についてである。例えば砂漠において、消費する飲み水が増える毎に水によって得られる満足感は小さくなっていく。一定値を超えると満足感は全くなくなるという現象である。
年収はいくらあれば幸せなのだろうか。1200万円を超えると追加収入が幸福度に与える影響はゼロになる。それなのになぜ、いつも収入を増やそうと躍起になるのだろうか。それは豊かさとは絶対的な価値ではなく、相対的な価値だからだ。
それは他者との比較であったり、過去の自分との比較でもある。よってお金がもたらす幸福度は本人の解釈次第でどうとでもなる。ここでお金との上手な付き合い方の4つのルールを示す。
- 貯蓄しておくこと Fuck you money(※友注 いつでも上司に逆らって会社を辞めることができるためのお金)があれば、ものごとを客観的に見て客観的に考えられるだろう。
- 所得額や資産額の僅かな変動に、いちいち反応しないこと。
- 裕福な人と自分を比較しないこと。そんなことをしても幸せにはなれない。
- もしあなたが大金持ちでも生活は質素にすること。十分なお金があれば、誰でもそういう事ができるのだ。
貧困ラインを超えたなら、良い人生は「お金以外の要素」で決まる。
16.自分の向き不向きの境目をはっきりさせよう
人間は能力の輪の内側にあるものは、とても良く理解できる。だが輪の外側にあるものは理解できない。あるいは理解できたとしても、ほんの一部だ。輪の大きさはさほど重要ではない。大事なのは、輪の境目がどこにあるかをしっかり見極めることだ、とバフェットは言う。
境目をしっかり知っておいれば、自分の能力に自信を持てるし、輪の外のオファーも断ることができ、時間の節約になる。
輪を越えたくなるという誘惑の他に、輪を広げたくなるというものがある。しかし人間の能力は、一つの領域から次の領域に「転用」が聞くわけではない。では「能力の輪」はどのようにして作り上げるのか。
- 必要なのは時間である
- 執着=中毒も必要である
平均的なプログラマーとすばらしいプログラマはー1000倍もの能力の開きがある。弁護士も外科医もデザイナーもそうだろう。よって、自分に不足している能力に不満を感じるのはやめよう。
17.静かな生活を大半にしよう
ブルームバーグの証券トレーダーとバフェットを比べてみよう。トレーダーが行っているのは投機であり、ウォーレンは投資をしている。トレーダーにとっては、扱う証券がどこにある企業だろうが、何をやっている企業かは関係ない。反して、従来型の投資家は、対象をよく理解している。大きな成功を収めるのは投資家しかいない。
しかし私達の脳は、「短期的に一気に状況が変わるような展開」を好むようにできている。私達は複利の凄さについて認識できていない。一つのことに長期的に取り組むべきだ。せわしなく動き回るのを控え、何事にも落ち着いて長期的に取り組む。そして「能力の輪」を作り上げたら、その内側にできる限り長くとどまろう。人生は静かな方が生産性が高いのだ。
18.天職を追い求めるのはやめよう
多くの人の頭の中には「人間はみんな、いつか花開く何かしらの才能の芽を持っているものだ」という「天職」という幻想を見る。しかし天職を追い求めるのは危険だ。ジョン・ケネディ・トゥール(※友注 自殺後ベストセラーになった小説の作者)が「小説を書くこと」を自分の唯一の天職としてではなく、単に得意とする特技とみなしていたのなら、失望し自殺することもなかっただろう。
大きな目標を追求する行為が悪いというわけではない。盲目的に天職だけを追い求めても、絶対に幸せにはなれないということだ。
マリー・キュリーやピカソのようなサクセスストーリーはいくらでもあるが、その背後にいる何倍もの挫折した人たちの物語を目にすることはない。(注 選択バイアス)
とりあえず心の声に耳を傾けるのはやめて、「得意なもの」「好きなもの」に基づいて仕事を選んだほうが良い。そして、それを他者が「高く評価」してくれれば生活の糧になる。
19.SNSの評価から離れよう
「実は誰よりも頭がいいのに、人から誰よりも頭が悪いと思われている」のと「実は誰よりも頭が悪いのに、人から誰よりも頭が良いと思われている」のとどちらが良いだろうか。世間の評価を気にしても、自分の頭の出来が変わるわけではない。そう気づけば、私は自分で作り上げていた「他人の評価」という監獄から自由になることができる。自由になったほうが良い理由は以下の3つだ。
- 他人からの評価は操作するのが難しい
- 気にしすぎると、自分が本当は何に幸せを感じるのかわからなくなる
- ストレスを感じていては、良い人生にはならない
周りからの褒め言葉や非難は穏やかに受け流すようにしよう。
20.自分と波長の合う相手を選ぼう
ほとんどの人は、自分の性格が20年後も変わるとは思っていない。あるいは変わるとしても極僅かだと思っている。しかし、自分の20年前のことを思い出してみよう。20年前と今のあなたは変わっているはずだ。「性格の変化」については2つの特徴がある。
- 自分の性格の変化をコントロールするのは難しい
- 自分以外の人間の性格は変えられない
よって、「誰かの性格を変えなければならないような状況を避ける」ことだ。例えば、性格の改善が必要な人間は雇わず、自分と波長の合わない人とはビジネスをしないことだ。性格を変えることは難しいが、スキルを上げることはできるからだ。
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