21.目標をたてよう
「あなたは誰ですか?」そして「あなたは何がしたいのですか?」人生には複雑な要素が詰まっている。よって自分のことを一行で説明することなどできないが、私達は簡潔な言葉でまとめようとする。しかし「自分は誰か」という問いにきちんと答えを出す必要はない。同様に人生の大きな意義を考える必要もない。
しかし人生の小さな意義の答えを見つけるのは大事である。個人的な目標がなければよい人生にはならない。幸福度は「目標を達成できたかどうか」で決まるからだ。
例えば、若いときに経済的な成功を重視していた人のほうが、数十年後の所得額が多く、若いときに高収入を目標に立て達成した人は、人生の幸福度も非常に高かったからだ。
経済的な成功を目標にしていなかった人は、所得額は人生の幸福度に寄与していなかった。つまり、人が幸せを感じるかどうかは、目標を達成できたかどうかで決まる。
目標は非現実的では不満を感じるし、厳格な規定よりも少し曖昧な方が良い。
22.思い出づくりよりも、今を大切にしよう
私達の記憶には、体験したことの(瞬間の)100万分の1も残らない。例えば24時間10分3秒前に自分が具体的に何をしていたか覚えているだろうか。
夏休みに対する学生の幸福度は、「夏休みを終えたあと」のほうが「夏休みを過ごしている最中」より高かった。思い出は美化されるとはよくいったものだ。しかし気をつけてほしい。振り返ったほうが幸福度が高いのは、事実を誤って記憶しているせいだとも言える。
4章で述べたピークエンドの法則でもある。また体験している長さ(旅行期間)も、脳の認識には影響を与えない。旅行が一週間だろうが三週間だろうが、刑務所で一ヶ月過ごそうが、三年過ごそうが、同じくらいに記憶に残る。この時間の長さの誤認を「持続の軽視」といい、ピークエンドの法則についで大きな影響を及ぼす、脳の勘違いである。
よって短期間に集中して得られる喜びを過大評価し、長期に渡って手に入る静かで平穏な喜びを過小評価しがちになる。
23.「現在」を楽しもう
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24.本当の自分を知ろう
第一次世界大戦の開始のきっかけは、セルビア人の若者がオーストリア・ハンガリー帝国の皇太子を射殺したことに始まると知っているだろう。しかし事実はそんな単純ではなく、様々な事情が絡んでいた。私達の脳は、よくコンピューターに例えられるが、コンピューターは生データをビットで保存するのに対し、脳はストーリーで記憶する。なぜなら脳の記憶容量には限りがあるからだ。
脳は出来事をつなぎ合わせて、因果のはっきりしたストーリーに仕上げる。このストーリーが一般的に、「自分」もしくはその人の「自分像」と呼ばれるものである。人生のストーリーに矛盾はない。つじつまが合わないことは、都合良く忘れ去られ、思い出せない部分は、驚くべき独創力で穴埋めされる。
記憶のストーリーにリアリティがかけていると、大きな問題が起きる。一つは私達自身が変化するスピードは思っているより大きい(注 20章)。2つ目は、頭の中のストーリーのせいで、人生が実際より「計画可能」なものに見えてしまうことである。3つ目は頭の中でストーリーを作り上げると、起きたことに特別な意味付けをしたり、言い訳を考えてしまうことだ。これでは失敗から学べなくなる。
最後に、私達は実際の自分より、より良く自分像を作りがちである。
25.死よりも人生について考えてみよう
26.楽しさとやりがいの両方を目指そう
人生において本当に重要なことはなんだろう。私達は何を一番大切にすればいいのだろうか。よい人生に必要なのは「楽しめる行為」か、それとも「有意義な行為」なのか。
ポール・ドーラン(注)は、人間が体験する一つ一つには、2つの要素があるとする。それが欲求の要素と意義の要素である。
快楽の要素は直接的な楽しみであり、意義の要素はその瞬間に意義を感じる私達の感情である。チョコレートを食べるのは多くの人にとって快楽の要素が大きく、意義の要素は小さい。それに対して、おばあちゃんが道路を横断するのを手伝うというときには、快楽の要素は小さく意義の要素が大きい。
芸術家が、芸術を追い求めて死ぬか、大衆迎合して金を稼ぐかで悩むのは昔からの常である。欲求と意義のバランス良い配分を心がけるべきである。2kgのチョコを食べ、24時間テレビを見て、5回セックスをした後に、同じことを繰り返すのは不毛だろう。
27.自分のポリシーをつらぬこう
あなたの、どうしても譲れないこと、主義またはポリシーは何であるか。どんな事情があっても妥協できない、個人的な優先事項や主義の明確な領域を著者は、能力の輪(友注 16章)にならって「尊厳の輪」と呼ぶ。
これは以下の3つの危険から自分を守る。
- より筋のとおった理論
- あなたの信念を脅かす危険(友注 28章)
- 悪魔の契約(友注 29章)
尊厳の輪を構築するに当たって絶対条件は、合理的な説明のつけられないものとすることだ。これを理論的に構築してしまうと、より筋の通った理論が出てきた場合、尊厳の輪が崩れてしまう。そして、尊厳の輪は小さいままにしておこう。中に入れるものが多ければ矛盾が生じやすくなり、少なければ責任を持って守りやすくなる。
28.自分を守ろう
私達は本文中のように拷問や独房、酷い寒さにてる必要はないが、私達の意思や主義、価値観は日々攻撃を受けている。しかも広告や間接的プロパガンダ、時代の風潮、マスコミのアオリ、法律などを通じてほとんど気づかれないほどひっそりと行われている。
それにしても社会はどうしてあなたに向けて矢を放つのか。それは社会において重要なのは団結であり、ひとりひとりの個人的な利益ではないからだ。(友注 日本で言う、出る杭は打たれる)あなた自身の考えを矢から守るために、尊厳の輪を強化していく必要がある。
29.そそられるオファーが来たときの判断を謝らない
あなたには10億円を積まれても他人に渡したくないものがあるだろうか。自分の命や家族の命がそうだろう。健康は?意見は?時間は?関心は?主義は?
自分の判断基準となる、小さく強固な尊厳の輪は、いわゆる悪魔に魂を売り渡す行為から自分を守ることができる。輪の基準が明確でないと、魅力的なオファーがあるたびに判断をしなくてはならない。
例)自分の額を広告スペースとし100万円の広告費を得た女性
尊厳の輪の中にあるものに交渉の余地はない。どんな時も、どんなに金を積まれても、その基本を変えてはならない。
30.不要な心配をとりのぞこう
私達人間は常に「不安」を感じていたからこそ、進化の歴史を生き延びることができたのである。不安を感じるセンサー、ようするに我々はどのくらい臆病であることが良いのか。不安のセンサーが強すぎると、慢性的なストレスになり寿命を縮める(注 第一、楽しそうな人生ではない)。意味のない「不安」を取り除くための3つの具体的な方法を示す
- 1日10分「私の心配事メモ」にすべてリスト化する。毎日すると、同じ事項で悩んでいることに気づく。その事項について、最悪の結末を想像し、集中して考えると、多くは消えてなくなる。それでも残ったものだけが、本当に危険で対応が必要なものだということだ。
- 「保険」をかけよう
- 「仕事」に精神を集中させよう。集中すると不安は抑制される。(友注 おそらく家事ではない)
31.性急に意思を述べるのはやめよう
ニュースでよくある話題について、この本を読む人ならすぐに何らかの意見を発することができるだろう。しかしどれも即答するには複雑すぎる問題だ。一時間は熟慮しなくてはならないはずだ。答えを発信する際に、私達が犯しがちな間違いが3つある。
- 自分が興味のないテーマにも意見をしてしまうこと
- 答えられない質問にまで発言してしまうこと
- もっとも深刻なのが、複雑な質問に性急に答えを返してしまいがちなこと
多くの場合、「即座に直感で答えをだして」、その後に理性的に考え、それを裏付ける理由を探し出す。この過程を「感情ヒューリスティック」(友注 好き嫌いの判断 経験則とほぼ同義)という。
早く発言することで間違った判断を下してしまうのも悪いが、あらゆる質問に回答しなくてはならないという呪縛も悪い。興味のない質問、答えられない質問、難解すぎる質問は精神的な「複雑すぎる質問用バケツ」にいれておく。
そういった質問には「わからない」と答えて良い。それは知能の低さの表れではない。知性の表れだ。
32.精神的な砦を持とう
ポエティウスによる「哲学の慰め」から、つらい状況を乗り切るための4つのアドバイスを列挙する。
- 運命の存在を受け入れること。なぜなら状況はそのうちまた変化するからだ。
- あなたが所持するもの、大事にしているもの、愛しているもののすべては永遠ではないということを理解する。
- 全てを失ったとしても、良いことのほうが多い。なぜなら、そうでなければ失ったものを惜しまないからである。
- 最後に、あなたの思考やそのための道具などは、だれもあなたから奪えないということ。
これを「精神的な砦」と呼ぼう。これらの考えはすべてストア派の原理である。
33.嫉妬を上手にコントロールしよう
嫉妬はあらゆる感情の中でも、もっとも無意味で役に立たない有害な感情である。私達が特に嫉妬を感じるのは、年齢や職業、環境や暮らしぶりが「自分と似た人たち」に対してだ。
あまりに状況が違うものに対しては、嫉妬の感情は湧いてこない。他人と比較する行為が、幸せを遠ざけるのである。その最たるものにFacebookをはじめとするSNSがある。
嫉妬をするときにも、13章で述べたフォーカシングイリュージョンが作用する。隣人と自分の生活を比較するとき、あなたの意識の焦点は、その相違点だけに絞られる。隣人のフェラーリと自分のカローラ、というようにだ。客観的に見れば、人生の満足度に与える影響は微々たるものでしかない。
逆に自分が嫉妬の対象にされたのなら、謙虚になろう。そうすれば相手の嫉妬も少しは収まり、その人の苦悩を最小限にできる。
34.解決よりも予防しよう
懸命さの定義とはつまり、困難に対して予防的措置を施すことである。「頭のいい人は問題を解決するが、懸命な人はそれをあらかじめ避けるものだ(注 アインシュタイン)」。しかし問題を避ける行動は魅力にかけてしまうことが厄介である。
氷山にぶつかって、懸命の救助作業を行う映画と、そもそも氷山を大きく迂回して安全な航行を達成した映画と、どちらが魅力的だろうか。予防措置で達成した成功は、外の正解から見ると目立たないのである。よぼう措置をとるのに必要なのは、知識だけではなく想像力である。
ちなみにワインを飲みながら頭に浮かぶのは、想像ではなく、過去に考えたことがまた脳裏に浮かんでいるだけだ。「想像」というのは、物事のあらゆる可能性をそこから予測できる結末を、持てる力の最後の一滴まで振り絞って、結末まで含めて綿密に推測することである。
35.世界で起きている出来事に責任を感じるのはやめよう
あなたも(わたしも)、自分の力を過信しないほうがいい。あなた一人の力で難題の解決などできるものではない。
例えあなたが戦争終結の最良の方法をみつけたとしても、もう一度慎重に検討しなおしてみよう。あなたよりも深くそのテーマについて専門に研究している人が、あなたの見つけた方法をそれなりの理由があって却下している可能性は大いにある。
もしあなたが、この星の苦境を少しでもよくしたいと思うなら寄付を使用。ボランティアが有意義であると考えている人が多いが、あなたが何らかの専門家でない限りは、あまり生産性は高くない。
惨事についての情報を積極的に入手するのは道徳的行為のように感じられるかもしれないが、そうではない。本当に理解したければ、一年はかかるかもしれないが、本を読むのが一番だ。災いは時と場所を選ばない。そしてこの世から無くなることもない。
そして世界で起きていることは、あなたの責任ではない。社会に対して無責任でいることというのは、つまり、アフリカに病院を建てるかわりに、自分の仕事に集中していたとしても罪悪感をいただなくてもよいということだ。罪悪感を抱いても現実は何も変化しない。
36.注意の向け方を考えよう
ビル・ゲイツは会場に居合わせた人々に成功を手にできた一番の要因は何かと訪ねた。バフェットは「フォーカス(着眼点)」だといい、ゲイツも同意した。どこに注意を向けるかは重要な要因のようだ。それなのに私達は注意を向ける方向をおどろくほど重視していない。
私達は「アラカルト」ではなく、私達の注意を引くためにお膳立てした「情報のサプライズセットメニュー」を取り込んでしまっている。情報は私達に何かを与えているのではなく、逆に私たちから何かを盗んでいる。自分の注意や時間、時にはお金まで、(友注 そしてcookie情報まで)奪っていく。
時間(=労働)とお金(=資本)については学術研究の対象になっているが、注意に関してはほとんどわかっていない。注意との付き合い方を間違わないためのポイントを列挙する。
(1)「新しいもの」と「重要なもの」を混同しないようにしよう。新しいものはなんでも世間の注目を集めなくてはならない。大きく取り上げられているからといって、それは真実ではないこともある。
(2)無料のものや無料のテクノロジーは避けるようにしよう。多くは広告収益モデルである。無料で人の注意を引きつけようとしているのだ。
(3)マルチメディアからはできるだけ距離を置こう。画像や動画、VRはインパクトが大きく、感情を揺さぶる。結果的に間違った判断を下しやすい。
(4)注意を「分散」させないように気をつけよう。これが注意が、時間やお金と違う点だ。
(5)「弱者」ではなく「強者」になろう。あなたのところへ自発的に持ち込まれた情報に対しては、受け身のあなたのほうが自動的に弱者になる。エピクテトスは、「手当たりしだいに暴力を振るわれれば、あなたは怒りだすだろう。それなのに、なぜあなたは出会う人出会う人が、あなたに精神的な暴力をふるおうとすることを恐れないのだろうか。」と述べている。
情報を取り込むときには、批判的に厳格に慎重になろう。食事をとったり、薬を飲んだりするときと同じくらいに、である。
37.読書の仕方を変えてみよう
読書をしてもほとんどが記憶に残らない。覚えているのは情けなるほどわずかである。著者は「良い本を選んで、二度読む」ようにしている。二度読んだときの読書効果は、ほぼ10倍に膨れ上がる。キーワードは「没頭」だ。ここで読書効果を引き出す4つの方法を記す。
- その本は「読む意味があるかどうか」をよく検討する。
- ミステリー・スリラーは二度読む必要はない。
- 回数券のように一年で読む本の数を決める。例えば著者は今後10年で読む冊数を100と決めている。
- あなたがまだ若く、自主的に読書を始めてからまだ月日が経っていない場合には、できるだけ多くの本を読むべきだ。
38.自分の頭で考えよう
私達は何かについて説明を求められるまで、その何かについて「比較的多くのことを知っている」と思い込んでいる。そしてきちんと説明しようとして初めて、自分たちの知識が不完全なことに気づくのだ。私達はなかなか自分で考えようとしない。私達は自分が属する社会集団の意見をそのまま借用してしまう。私達はおもに「自分の周りの知識のコミュニティ」の知識に頼っている。(注 「知っているつもり-無知の科学-」)
恐ろしいのは個別のテーマに対してだけ「グループの意見」があるのではなく、「グループの意見」自体が一つの世界観を形成している場合だ。それを「イデオロギー」という。イデオロギーであることを示す危険信号は以下の3つである。
- あらゆる事象に対する説明が用意されていること
- 反論の余地がないこと
- 不明瞭であること
とくに反論の余地のないものには注意するべきだ。マルクス主義が典型である。しかし、そういった人に会ったら次のように訪ねてみるべきだ。「あなたの世界観を手放さざるをえないのは、どんな出来事に遭遇したときですか?」
自分の意見を述べるときは、考えなしに人の意見を取り入れるのではなく、自分自身の言葉を見つけたほうが良い。
39.「心の引き算」をしよう
人生におけるポジティブでなことの99%は「新しく起きる出来事」ではなく、「ある程度長期に渡って続く一定の状態」であるが、最初に感じた幸せは「慣れ」によって消えてしまうのだ。感謝の気持ちの維持は「慣れ」との戦いになる。
「まだ持っていないものについて考えるよりも、今持っているものを持てていなかった場合、どのくらい困っていたかについて考えたほうが良い」(注 ストア派哲学者の言)
銀メダリストは金メダリストと比較するから幸福度が低く、銅メダリストはメダルに届かなかった人と比較するので幸福度は高くなる傾向にある。
40.相手の立場になってみよう
非難しあっていた顧客サービス部門と、プログラマー部門の責任者を正式に入れ替えたことで、一週間もしないうちに二人はお互いの部門の問題の本質を理解できるようになった。相手をきちんと理解するには、想像の中だけでなく「本当に相手の立場に立つ」のが一番である。
シンドラー社の新入社員は、みんな例外なく一年目のうち三週間は現場の「製品添え付け業務」に携わらなければならない。多くの人は混同しているが、「思考」と「行動」は両方とも世界を理解するためのアプローチ法ではあっても、根本的に全く違う。
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